放課後の視聴覚室は密の味
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
と、語気を強める奈菜は続ける。
「そもそも、秀が私の教室に来るからいけないんだよ」
「それは仕方ないだろ。
浅野先生が急用で早退して、自習用の課題も作ってないし…たまたま空き時間だった僕が行かされたんだよ」
“仕方ない"を強調しつつ、
密かに、奈菜の教室に行けることに胸を踊らしていたことは……内緒。
「じゃあ、私も仕方ないじゃない」
少しムキになり始めた奈菜。
こうなれば
もう、仕方ないな。
僕は「そうだな……」と、折れる。
とゆうか、折れるしかなくなる。
いつでも、何に対しても一生懸命な奈菜だから……
奈菜とのこうゆうやり取りで、僕が勝った例(ためし)などない。
よって、今日もまた僕の負け。
でもまぁ、そもそも勝つつもりもないんだけど、こんな些細なやり取りが楽しいんだよな。
奈菜とだから……
そして
「そうでしょ?」と、奈菜は満足げな表情を浮かべる。
それを微笑ましく見てしまう僕は
相変わらず17歳も年下の高校生に振り回されっぱなし。