夏色ファントム
ジリジリとアブラゼミの鳴き声がうるさい。
木々の間から差す木漏れ日が、薄暗い足元を照らしていた。
体から汗が吹き出し、俺のTシャツを濡らす。
山に入り、数十分。
俺は迷子になった。
「どこ?マジでどこ?」
辺りを見回すも、木しか見えない。
足を進める度に、何だか家に帰られない気がしてしょうがない。
だからと言って、引き返すのもどうかと思う。
俺は自分を信じ、歩き続けた。
水筒の中身も無くなり、喉がカラカラになる。
「あっちぃー……」
腕で額の汗を拭う。
ふと、視界の端に何かが走り去るような影が写り込んだ。