アディクト·ナイト《密フェチ》
「随分と醒めてるねぇ」
彼は壁にもたれ掛かり、ふうんと頷いた。
その瞬間――くらりと、軽い目眩がした。
甘い匂いが、鼻孔に深く侵入してきたから、だ。
海外製のお香のような、危なげな香り。
普段、昼間は感じることはまず有り得ないそれ。
「一人で飲むのは寂しい?」
無意識に彼の方に目を向けていたようで、不意に彼と目が合った。
こんなに暗がりだと、具体的に彼の顔立ちが捉えられない。
ただ、私の嗅覚だけは確かに彼の存在を確かにしていた。
香水だと思う。
ただ、何の香水なのかは分からず、何故か気になって仕方がない。だからだろうか、鼓膜が破れるような大音量の中、彼が囁いた声は、妙に耳に留まった。
「まさか」
冷笑気味に、私はそう言ってのけた。
それにも構わず、私の顔を覗き込む彼。