【短】匂いの記憶
それ以来、大好きだったはずのその匂いがする度に苦しくなって。
この本も、手元に置いておくのが嫌で売ってしまおうかと思ったくらい。
それでもやっぱり手放せず、今の今までクローゼットの奥深くにしまってあった。
卒業式の日。
『この匂い、好き。あたしもおんなじ香水使おうかなぁ』
そう言ったあたし。
ほんとはあなたのことが好きって言いたいけど、勇気がないから匂いに想いを乗せて。
『俺はお前のその匂い、すげぇ好きだよ?』
大好きな笑顔がそう言った。
単純なあたしは、今でも同じ香水を使い続けている。