珈琲の香り
涼さんに抱きしめられ、蒼君と別れてから1週間。

私は涼風でのバイトも休み、完全に引きこもり状態になっていた。




もういい……

バイトをクビになろうと、学校中の人間が私を笑おうと、もうどうでもいい。

もう誰も好きにならない。

涼さんのことは忘れよう……

蒼くんのことも……





そんなことばかり考えてた。

でも、忘れようとすればするほど、涼さんの声を思いだし、抱きしめられたときのことが頭に浮かぶ。

ご飯が喉を通らないほど、胸が苦しい。

こんなこと、初めてだ。

風邪ひいて熱を出しても、ご飯だけはしっかり食べれるのに……



「―……いっちゃん、いつまでそうやってるつもり?」

「んー……」

「ご飯も食べない、涼風にも行かない。…………こらっ!樹!しっかりしろっ!」

「んー……」


桜がどんなに呆れてるか、よーくわかってる。

でもね、動きたくないの。

涼風に行かなきゃいけないなーって、しっかりしなきゃいけないなーってわかってるの。

だけど、どうしても体が動かないの……


「なんだか……いっちゃんらしくないよね。いつもなら、こんなことじゃちっとも動じなくて、堂々としてるのに……」


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