珈琲の香り
私の叫びに、隣に立っていた桜は目を丸くしていたけど、すぐに吹き出すように笑い出した。



「知ってるよー。いっちゃんが無理してることも、誰よりも守って欲しいって思ってることも……全部わかってる!」

「わかってるって……初めて言ったんだけど!」

「わかるよ!何年双子してると思ってるの?樹の考えてることなんて、お見通しなの!」

「ふ、双子だからって、何でもお見通しなんておかしい!私は桜の事、知らないことが多いよ!」

「それは樹が知ろうとしないだけでしょ?私のホントの姿を知ってる友達に何て言われてるか知ってる?悪魔よ!悪魔!誰かに守ってもらうほど弱くないのよ!」


桜とこんな風に言い合うなんて、子供の頃以来……

小さい頃は些細なことで喧嘩したっけ……

言い争いだけじゃすまなくて、ぬいぐるみやクッションが飛び交ったこともあった……

それがいつの間にか喧嘩しなくなって、強い樹と弱い桜。

それが当たり前になってた。

『桜を守らなきゃ』

そう思っていたのは、私の独りよがりだったのかもしれない。

目の前に立つ桜は、鬼のように怖い顔をしていて、誰よりも強く見える。

私なんかよりずっと……


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