珈琲の香り
涼さんが結婚してたこと、その相手が蒼君のお姉さんだったこと、もう亡くなってること……

桜には驚きの連続だよね。

少しずつ話すたび、桜の目は大きく見開かれていき、今にも目が落ちそうなほど。

そりゃあ、驚くよね。

私も同じような反応、してたと思うし……

でも、少しはわかってもらえたかな?

私の気持ち……

諦めたくないのに、諦めるしかない。

そんな気持ち……



「――…………いっちゃん。私なら諦めない。」


桜の目はまっすぐ私を捉えていて、逸らすことができない。

『諦めない』

それ以外の言葉がなくても、桜の強い気持ちがわかる。

人を愛するって、こういうことなのかもしれない。

何があっても、諦めない。

例え、ほんの少しの可能性があるのなら、絶対に諦めない。

それが、人を愛し、愛してもらうことなのかもしれない。


………だったら………私………は?


涼さんを好きな気持ちに嘘はない。

諦めなきゃいけない。

そう思っていても、『好き』という気持ちは涼さんに向かってる。

桜ほど強い気持ちはないかもしれない。

それでも、やっぱり涼さんが好き……


涼さんといると、素直な自分になれる。

短い時間だけど、一緒にいて、楽しいと思える。

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