珈琲の香り
溢れ出した気持ちを押さえる術を知らないのに、押さえることしか考えてなかった。

相手を思う気持ちは自由なのに……


「桜のお陰で、何だか元気が出てきた。ありがと」

「どういたしまして。……それより、お腹空かない?夕飯、どうしよっか?」


夕飯……

もう、そんな時間なんだ。

泣いたり、怒ったり、桜と喧嘩したり。

いつの間にか辺りは暗くなっていた。

そんな時。


『ピンッポーン』


………………?


「誰か来た?」

「こんな時間に?」

「環さんじゃないの?」

「……環、今出張中。海外だからすぐに帰ってこれないよ」


………じゃあ……誰?


「お母さんかな?」

「ママだったら来る前に連絡来るよ。」

「……じゃあ、誰?」

「知らないよー。……あっ、案外新堂くんだったりして。」

「それは絶対ありえ……ないこともない……かな?」

「とりあえず、出てみようよ…」


夜7時。

決して遅いとは言えない時間だけど、訪ねてくる人が少ない私たちにとってはドキドキ。

桜と二人、手を取り合って玄関に向かうと……


『……いねぇのか?』


………………ん?

この声…………………


「涼……さん…………?」

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