珈琲の香り
ドアの向こうから聞こえるのは、聞き慣れた涼さんの声。

……でも、何で?


『ピンッポーン』


再び鳴るインターフォン。


「いっちゃん、出なよ?」

「い、嫌だよ……こんな顔のままじゃ。桜、出てよ。」

「私こそ嫌だよ。涼さんはいっちゃんに用があるんでしょ?」

「そうかもしれないけど………」


『やっぱ、いねえのかな?』


涼さんの声がドアの向こうに聞こえる。

1週間。

たった1週間なのに……

すごく……………

聞きたかった……………


「…わかった。いっちゃん、今のうちに顔洗ってきて。」

「……………ごめん」


洗面所に向かう私の後ろからは、ガチャガチャと玄関を開ける音が聞こえる。


「何だ。いるじゃねえか」

「こんな時間に来るから、警戒したんですよー。」


玄関から聞こえる涼さんの声。

たった1週間なのに……

その声が胸を締め付ける。

やっぱり涼さんが好き。

気持ちに蓋なんて、最初からできなかったんだ。

……だから、こんなにも苦しくて、辛くて……幸せなんだ………


早く会いたい……

でも、会いたくない……


「―……いっちゃんのこと、怒りに来たんですか?」

「ちげーよ……」

「じゃあ、何でです?心配…とか?」

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