珈琲の香り
洗面所まで聞こえる、桜と涼さんの声。

早く会いたい。

その一心で水で顔を洗う。

せめて、泣いたことがばれませんように……

鏡に映る顔は、微かに泣いたことがわかるような、うっすらと赤い目が映る。


……これならきっと平気。


気合いを入れるように化粧水を叩き込むと、そっと洗面所の扉を開けた。



「な、なんだ。いるじゃねぇか。」


私が声をかけるより早く、涼さんが声をあげた。

顔、あげるのが怖いな……

そう思っていても、反射的に顔をあげてしまう。

親の教えってこわい。




……お父さん、恨むよ。『声をかけられたら相手の顔を見なさい』なんて教えて。気まずくても、反射的にあげちゃうじゃない!



反射的にあげた顔、その先にある会いたかった涼さんの顔。

その顔が………


「……何で赤いの?」


私を待つ間、桜に何を言われたのか。

いつも無表情で、何を考えているかわからないような顔をした涼さんが、真っ赤な顔をしている。


「あ、赤くなんてねぇよ!それより、ずいぶんと長い休みじゃねぇか」

「すいません………」

「まあ、怒りに来た訳じゃねえから安心しろ。」

「「じゃあ、何しに?」」

「こういうときばっかハモんじゃねえよ!」


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