珈琲の香り
「笑うな。」


怖い顔をして怒ったような顔をしてるけど、そんな顔をすればするほど、小さな子が拗ねてるように見える。

涼さんでも、こんな顔するんだ。

……やっぱり、涼さんのこと好きだ。


「ま、まあ。元気でいるってわかって安心した。…店は、来たかったら来い。このままやめても誰も責めないから。」


涼さんの大きな手が私の頭に乗る。

大きくて、暖かい手。

美味しいコーヒーとクッキーを作り出す、武骨だけど、器用な手。

その手にそっと自分の手を乗せる。

大きさも全然違う。

ゆっくりと顔をあげると、驚いたような涼さんと目があった。


「………ご、ごめんなさい。つい……」

「親父さんでも思い出したか?」

「…………そこまで子供じゃないもん。」


お父さん……か………。

お父さんの手は、涼さんより小さいけど、もっと荒れて武骨ですよ。

壊れた車やバイクを簡単に直してくれる。

私にとって、魔法の手だったな……

そのお父さんの手より、今は涼さんの手の方がしっくり来る。


「………何だか私、お邪魔みたいね~」


涼さんの手の温もりを頭に感じたまま横を向くと、ニヤリと笑う桜と目があった。


……………忘れてた。桜がいること。


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