珈琲の香り
「あ…………」


ガチャガチャとカップやドリッパーを用意してから思い出した。

豆がない!

挽いた豆はあるけど……

いつも美味しいコーヒーを淹れてくれる涼さんだから、挽きたての豆で淹れたかったな……

些細な見栄だけど………


「……おい。豆から挽くのか?」

「そうしようと思ったんですけど………豆、切らしてました。挽いた豆ならあるんですけど……」

「それでいい。金払って飲みに来てる訳じゃない。それに、コーヒー通って訳じゃねぇからな」


「……え?喫茶店のオーナーなのに?」

「バリスタの勉強はしたが、コーヒーが好きって訳じゃねぇよ。俺の煎った豆が好きで、俺の淹れたコーヒーが好きだった奴がいたんだ。……だから、喫茶店をやってる。」


涼さんは、ほんの少し寂しそうな顔をしてた。

好きだった奴……ね……

それって、風花さんのことだよね?きっと……

今でも風花さんが好きなんだろうな。

私が入る隙なんてないほど。

………何だか、悔しい……

今でも涼さんの心の中には風花さんがいて、私が入る余地なんてないことが……

それに……忘れられないほど、誰かを愛するってことが……

もし、今涼さんがいなくなったら、私は涼さんのように思い続けられるのかな?

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