珈琲の香り
「お···お前···何言っ··」


涼さんの顔が見る間に曇る。

困らせてる。

それはわかってる。

でも、言ってしまった。

もう今更ひけない。


「···全部聞きました。蒼くんから。それでも···」

「それ以上言うな。それ以上···」


涼さんの顔が困ったように、少し悲しそうに歪む。


···言わなければ良かった···


そんな風に感じさせる顔だった。

「···今のは聞かなかったことにする。···明日は···出て来いよ···」


涼さんはそれだけ言うと、ゆっくりと部屋を後にした。

静かに閉まる玄関の音が、部屋に響く。

涼さんを傷つけるつもりはなかった。

困らせるつもりもなかった。

ただ···自然と想いがでた。

涼さんが好きだと···

こんな風に困らせるつもりも、悲しませるつもりもなかった。

ただ、涼さんが好き。

それだけだった。


「···何してんだろう?私···」


それだけ言うのが精一杯だった。


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