珈琲の香り
涼さんが出て行って、どれくらい経ったのだろう。

さっきまで湯気をあげていたヤカンは静かになり、人肌程度に冷めている。


言うつもりじゃなかった。

こんな風に、涼さんを傷つけるつもりはなかった。

だけどあの一瞬、すっと滑るように言ってしまった。

好きだと・・・

言ってしまった事はもう取り消すことはできない。

だけど・・・

言わなければ良かった。

そんな後悔ばかりが浮かぶ。


「ただいまー。涼さん、もう帰ったの?・・・っていうか、どうしたの?そんな顔して」

「桜ー!!」


戻ってきた桜の手には、カップ麺やオニギリと一緒に、涼さんのためだろうお茶菓子がはいっていた。


「桜、言っちゃったよ~。涼さんに好きだっていっちゃった・・・」


それだけ言うのが精一杯だった。

「そうかー。言ったかー。涼さん、何て言ってた?」

我慢の限界も、そこまでだった。


「桜ー・・・」


涼さんが来るまで泣き続けたのに、涙は枯れることがなくて、次々に溢れ出した。


「どうしたの?フラれた?」
「…聞かなかったことにするって……好きだって言ったこと……」

「何ー!!って怒りたいところだけど……涼さんの事知っちゃっただけに、怒るに怒れないね……」


夜の空気を纏った桜が、そっと抱き締めてくれる。

ゆっくりと、背中をさする手が優しい。

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