珈琲の香り
謝っても、何度謝っても、もう戻れない。

私が選んだことだから……

だから………

ごめんなさい……………



「樹……

今なんで泣いてるのか、僕には分からない。

だけどね、その全部をにいちゃんに話したらいいよ。

無口だし、無愛想だし、素直じゃないけど、きっと樹の全部を受け止めてくれると思うよ。

樹を受け止めることくらい、にいちゃんにだってできるし。

それに、風花さんのことがあってから、初めて笑うことができたんだから。

だから………

本人に直接言ってごらん?

…………………ほらっ、来た。」



頭に載せられた手がゆっくりと離れていく。

微かな温もりと、優しさを残して………

そして、その手がゆっくりと伸びる。

その先に………………



「涼……………………さん………………?」


息を切らし、肩で息をする涼さんがいる。

膝に手をついて、すごく苦しそうで……


あ………お店のエプロン、したままだ………

でも、何で…………?



「さっきね、樹を先に行かせたあと、にいちゃんにメールしたんだ。

『樹が事故った』ってね。

ちょっと考えれば分かることなのに。

事故って怪我してたら、メールじゃなくて、電話がかかってくるってことくらい。

でも、メールか電話か、そんなこと気にならなかったんだね。

あんなに息切らしちゃってさ。

きっと店もそのまんま………」
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