珈琲の香り
青い顔をして、エプロンを外すことすら忘れて……

失うことが怖かった……

そう言って、涙を流してくれて……

私、ちゃんと愛されてたんだ。

ちゃんと……愛されてるんだ。

外で会えなくても、言葉がなくても……

涼さんは、私を愛してくれていたんだ………………


愛されてる事実を、100の言葉じゃなく、たった1通のメールで、蒼くんは私に見せてくれたんだ。


「涼さん。ごめんなさい……」


私は涼さんの腕の中へ飛び込んだ。

微かに香るコーヒーの香りと、涼さんの体臭が私を包み込む。

ドクンッドクンッ

涼さんの心臓の音が耳に響く。

その鼓動一つ一つが「愛してる」って言ってるように聞こえる。

言葉がなくても、きっと全身で「愛してる」って。

涼さんは言ってくれていたんだよね。

私が気がつかなかっただけで……

「……もう、どこへも行くな。」

「うん………」


冷くなった涼さんの手が、そっと私の背中を撫でる。

その冷たい手を、私が暖めてあげる。

寒い冬に飲む、アイリッシュコーヒーのように……

風花さんの分まで、大切なことを教えてくれた蒼くんの分まで。

いつまでも、私が涼さんのアイリッシュコーヒーになってあげる。




「樹。愛してる…」


アイリッシュコーヒーなのは、涼さんの方なのかもしれない。



ほらっ。

たった一言で、私の心をゆっくりと溶かしてくれる。



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