珈琲の香り
あれからいくつの季節が過ぎたのだろう?


樹に初めて会ったのは、スーパーだった。

風花を失って、ただ漠然と毎日を過ごしていた俺にぶつかったんだっけ……

色を失った世界で、ただ生きてきた俺の前に現れたお前は小さくて、でも俺に色の世界を取り戻させてくれた。

たった一度の、スーパーでぶつかっただけの存在。

なのに、もう一度お前に会いたいと思った。

会えたらいいと、何度かスーパーにも行った。

でも、偶然なんてそう起こることもなくて……

お前の起こしてくれた奇跡はまた、白と黒の世界に戻ろうとしていたんだ。


それがあの日……

もう一度奇跡が起きた。


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