珈琲の香り
「これ、僕の兄ちゃん。…って言っても、全然似てないんだけどね」


目の前の新堂くんとマスターを見比べてみると……

確かに、似てないかな?

マスターは涼やかな一重だけど、新堂くんは可愛いとさえ言えるぱっちり二重。

それに、話し方も全然違う。


でも……持ってる雰囲気は似てるかも……


「新堂くんって、一人っ子だと思ってた。」

そういう桜ににっこりと笑いかけると、


「年が離れてるからね。……この人、こう見えて30過ぎてるんだよ」

「あらっ。そんな風に見えないわー」


……桜。近所のおばさんみたいになってるよ。手なんかヒラヒラさせちゃって…


「…――30過ぎてて悪かったな。それより蒼、何しに来た?」

「うーん?コーヒー飲みに来たの。それと、兄ちゃんが無駄にお客さんを威嚇してないかのチェック。」


何だか、いつもの新藤君とは違う。

なんて言えばいいのかな…?

いつもはしっかりした感じなのに、マスターの前では“弟”って感じ。

年相応で、可愛いな…なんて思っちゃったりする。


…きっと、マスターが大好きなんだね。

そんな新藤君も、結構素敵…


そんなことを思いながら新藤君の横顔を見つめてたら、くるっとこっちを向いた新藤君とバッチリ目が合っちゃった。

…あちゃー…見惚れてたの、バレちゃうよ…


「樹と桜ちゃんって、この近くなの?」

「え…っと。うん…。駅の向こう側だよ」

「ホント!?」


何だかすごく喜ばれてる?

もしかして新藤君って…桜狙い?…だよね。きっと…

私みたいなタイプより、桜みたいに可愛らしい子が隣にいたほうが似合うし…


そんなこと、わかりきってた事なのに…

新藤君みたいな人が、私なんて好きになるわけないって…

わかってたけど、やっぱりショックで。

少しだけ新藤君から目をそらすと、驚くような提案をされた。


「ねぇ、樹。ここでバイトしない?」

「…はー?」


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