珈琲の香り
目の回るような忙しさでも、顔色ひとつ変えずに次々に注文をこなしていく。

その無駄のない動きに見惚れてしまう。


「……ボーッとするな。空いたテーブル、片付けろ」

「はいっ!」


……私、何しにここに来たの?

確か…コーヒーが飲みたくて来たんだよね?

それが………なぜ学校前に仕事?


……ほんっとにキツい。

私、お客さんで来たはずだったのに……


いつまで続くのー!


………って思ってたら、1時間くらいでピークは過ぎて、気がついたら10時近くになってて……

そろそろ学校行かないとまずいかもっ?!


「マ、マスター……そろそろ学校…………」

「…遅刻するなよ」

「わかってます!…ってか、仕事させたの、マスターでしょ?」

「…マスターって言うな。涼でいい」


……何気に会話、成立してないと思う。

それに、何?

「マスターと呼ぶな。涼と呼べ」だと?

喫茶店の店主をマスターと呼ばず、何て呼べと?

……あ、それで“涼”なんだ……


って、そんなのどうでもいい!

今は完全に遅刻しそうだー!


「…飲んでけ」


そう言って差し出されたのは、白い大きめのマグカップに注がれたコーヒー。


「…お前用のカップ。間違っても客には出すな」


わざわざ用意してくれたのかな?

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