珈琲の香り
「…――なんてね、冗談!ほんと、偶然だよ!」

「そ、そうだよねー。」


ビックリしたー!

冗談でもそんなこと言われたら、このちっちゃい心臓、止まっちゃうよー。


そりゃそうだよね……新堂くんみたいな王子さまが、私みたいなちんちくりん、待っててくれるわけないよね……

でも、すごく真剣な目、してたな……

いやいや!期待しちゃいけない!

だって……桜みたいに可愛くないし……


気がつくと自分の頭をブンブンと振っていたようで……


「…――樹?大丈夫?」


新堂くんのきれいなお顔が目の前にあった。


「―――!」


フワッと香るコロンの匂いが鼻をかすめる。

か、顔が!息が!もう無理ー!


ボンっ!


顔が赤くなるのがわかる。

頭振ってたことも恥ずかしいけど、顔が目の前にあることが恥ずかしい!


……こんなことなら、もう少しおしゃれすればよかった……


「買い出しはこれだけ?」

「あ…あと、パン屋に……」

「じゃあ、荷物持ってるから行っておいでよ」


何事もなかったような新堂くんの顔が憎らしい。

……きっと、新堂くんにとって私は、同じゼミの友達にしか思われてないんだろうな……

そう思うと、少し悲しかった。
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