珈琲の香り
「…――ねえ、樹?」

「は、はい!」

「ふふっ。山田とか、小柳とかは呼び捨てで、何で僕だけ“新堂くん”なの?」

「へ?」

「にいちゃんも“涼さん”って名前で呼んでて。」

「そそそれは……」


まさか“好きだから”なんて言えない。

言っちゃったら……

今みたいに話ができなくなっちゃうよ。


汗が吹き出してくる。

これって、暑さのせいじゃないよね……

ど、どうしたらいいの?

顔、あげられないよー。



「……僕もさ、名前で呼んでほしいなー」

「なっ!」


名前で呼んでって?!

ムリー!!

絶対ムリー!!!

だって、新堂くんだよ?!

王子さまだよ?!

イケメンコンテスト2年連続1位だよ?!

そんな、そんな新堂くんを名前で呼べって!

そんなのムリー!!


「……ダメかな?」


新堂くんが私を見下ろす。

少し寂しそうな顔してる?!

その顔、反則だよ……

そんな顔されちゃったら、イヤとかムリとか言えないじゃない…


「ど………努力してみます……」

「やったね!」


ち、ちょっと待て!

今、あんなに寂しそうな顔してたのに、その満面の笑みは何?!


「…騙された……」

「騙してないよー。」


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