珈琲の香り
関係ないって、そんな言い方ないじゃない!

そりゃあ私はバイトだし、1か月程度の付き合いしかないけどさ、あんなふうに言われちゃったら余計に気になるじゃない!!


「久しぶりに…怒らせちゃった…」


プリプリとレポートを片付けていたら、後悔したような蒼くんの声が聞こえた。

そっと顔を上げると、イタズラを見つかったような子供のような顔をしていて、ちょっとだけ笑った…


「樹、帰ろっか…」

「…はい」


“はい”って答えたものの、奥に入ってしまった涼さんも気になる。

あんなふうな顔、大人の人でもするんだ…

それが気になって、奥につながる扉を見つめてしまう。

涼さんは出てこない。

そうわかっているのに、動くことができない。

蒼くんを待たせちゃいけない。

だけど、涼さんが気になる…


「樹?」

「あ…はい…」


後ろ髪をひかれるって、こういうことなんだろうか?

蒼くんの声に急いで鞄を持つと、涼さんに声をかけてから店を出た。






駅までの坂道を、ゆっくりと下る。

私の右手は蒼くんと繋がれていて、見上げると優しい目で私を見返してくれる蒼くんに、私は未だに慣れない。


それに…


「疲れてない?荷物、持とうか?」


そんな優しさにも、慣れない…

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