珈琲の香り
蒼くんの言ってることの意味が、わからなかった。

ずっと、蒼くんだけを見ていた。

片想いしてる間から、ずっと……

笑ってる蒼くんも、真剣な表情の蒼くんも、今目の前にいる、甘い色を灯した蒼くんも……

ずっと蒼くんしか見ていないのに……


きっと……桜ならうまく言葉にできるだろうな……

そのもどかしさが悔しい。



そんな私の思いを感じたのか、蒼くんは私の頭を本っと叩いて、ゆっくりと笑いかけてくれた。


「……飯、食べに行こう?」

「はい……」


私の顔を覗き込むように見つめた瞳には、もう甘い色はなくて、いつもの蒼くんの目だった。




私たちはまた、手を繋いでゆっくりと坂を下り始めた。


「…――何食べたい?」

「蒼くんは?」

「僕は何でもいいよ。好き嫌いないし」

「…私も、何でもいい……」


ゆっくり坂を下りながら、商店街にある飲食店をあれこれ思い浮かべる。

ラーメンかな?それとも、定食屋?…あっ、牛丼…?


…って言うか………これって、初……デート……だよね?

いつもはもう少し遅くまで涼風にいるし、家まで送ってもらうだけだったから……

初デートでラーメンとか、定食とかって……ダメだよね……

もう少し女の子らしいところを選ばないと……


< 51 / 174 >

この作品をシェア

pagetop