珈琲の香り
「じゃあ、とりあえずお疲れ様ってことで」

「はい。カンパ~イ」


カチンっと合わせたジョッキのビールはやっぱりおいしくて、ついいつもの調子でグイッと半分近く飲んでしまって…


あちゃー、やっちゃった…

なんて思っていたら、目の前の蒼くんが


「おいしそうに飲むんだね」


って、ニコニコしていた。


すごーく……恥ずかしい……


蒼くんのジョッキにはまだ大分残っていて……


「ジョッキだけ見ると、男女逆転だね~」

なんて蒼くんは楽しそうに笑った。




それから2時間。

私たちは他愛のない話を続けた。

子供の頃の事、研究室や教授の事、桜の事…

その中にはもちろん、涼さんの事も話題になった。


「…兄ちゃんはね、あんな顔して結構ロマンチストなんだよ」

「嘘っ!そんな風に見えない!!」

「これがホントなんだよ。風香さんにプロポーズした時なんてね」

「ちょ、ちょっと待って。風香さんって誰?」

「あ、そうか…知らないよね。風香さんって、兄ちゃんの奥さん」


…なんだ…涼さん、結婚してたんだ…

そうだよね。今35歳って言ってたもんね。

結婚してないわけ…ないよね…


……何だろう…?

この、気持ち…


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