珈琲の香り
静かな店内に、カラカラと氷の音が響く。

お互いの存在は感じるのに、何も話さなくても苦痛じゃない。

それが不思議。


今まで、こんな風に感じたこと、なかった。


落ちる沈黙が苦痛で、どうでもいいことばかり話して、でも、それすら空回りして。

……私、桜みたいに可愛くはないから、せめて『話していて面白い』って思ってほしくて。

それでも、やっぱり空回りして……

言いたいこともうまく伝えることもできない。


……結局、そんなことに疲れちゃって、うまく笑えなくなって、“何か違う”ってフラれる。



「……恋愛って、難しいね」

「…お前が難しくしてんだよ」

「そーかな……」

「…蒼を信じてやれ。………あいつは、いい奴だから」


それは、わかってる。

ずっと片想いしてきたから。

蒼くんを見てきたから。

でも……



「樹!お待たせ!」


涼風に飛び込んできた蒼くんは、いつもよりラフな格好で、少し幼く見えた。


「……少なくとも、蒼はお前に素の姿を見せてるよ」


これが……蒼くんの素の姿………?


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