珈琲の香り
「…まぁ、いるなら仕事していけ。」

「あ!じゃあ、美味しいコーヒーの淹れ方、教えてください!うちで淹れると、涼さんのみたいに美味しくないの!」

「…みっちりしごいてやる」

………うぅ……お願いしなきゃよかったかも。


涼さん、目が怖い。

しかも、意地悪そうな笑顔まで浮かべてる。


「涼さん、楽しそう……」

「楽しいぞ。お前、鍛えがいがありそうだから」

「…………」


やっぱりお願いするんじゃなかった……



涼風でバイトを初めて2ヶ月。

こんなに楽しそうな涼さんは、初めて見た。

いつも無愛想で、笑うなんてことが滅多になくて、無口で。

そんな涼さんが鼻唄歌いながら、サラダの準備してる。

大きくて、武骨で、器用には見えない手が、次々に野菜を刻んでいく。

トントントンッて、心地よいリズムが、店内に響く。


「ふぁ~……」



……………眠くなりそう。



「……………でかい口」

「―――――!」





見られてたー!

野菜切ってるから見てないと思ってたのにー!


「…涼さんって、頭のてっぺんにも目があるの?」

「……バカだ」




むぅ~……反論できない。


< 78 / 174 >

この作品をシェア

pagetop