珈琲の香り
私の知らない蒼くんの姿。

だけど……どうしてだろう?

蒼くんの話を聞いても、胸がときめかない。

微笑ましいなーとかは感じるの。

だけど、聞けて嬉しいとか、そういうのを感じない。

……アイドルの子供の時の話?聞いてるみたい。

あんなに好きだったのに。

不思議……


今は涼さんの方が気になる。

私って、何なんだろう?

浮気性なのかな?

自分がわからない。



「…――できました」


蒼くんと涼さんのことを考えていても、手は自然と動いていて、慣れって怖いって思う。


「…次は俺が淹れる。どこが違うかよく見ておけ」


そういうと、涼さんはヤカンを火にかけ始めた。

いつも正面から見ている動作。

それを横から見る。



流れるような動き。

武骨な手。

無愛想な顔。


蒼くんと似ていないようで、どことなく似ている。

時々見せてくれる優しい笑顔。

ぶっきらぼうな口調。



涼さんを知りたい。

どんな子供時代を過ごし、どんな人と恋に落ちたのか。

風花さんってどんな人だったのか……

涼さんのすべてを知りたい……


こんな気持ちになったのは、初めて……


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