珈琲の香り
すっぽりと涼さんに隠れるように抱き締められた格好のまま、動くことができなかった。
『ただふざけてただけ。』
そう言えればよかった。
でも、声が出なかった。
「…にいちゃん。樹に何した?」
「…何も。」
「じゃあ、その格好はなんだよ!」
「………何だろうな」
「ふざけんな!何にもなくて、そんな格好するか?!」
蒼くんの声が、痛いほど静かな店内に響く。
傷つけた……
こんな私を好きだと言ってくれた。
甘い言葉や、甘やかされることに慣れていない私を、大切にしてくれた。
学校中の噂になっても、私を守ってくれた。
そんな蒼くんを、私は傷つけた。
だけど、不思議とホッとしてる自分もいる。
何となく曖昧だった、涼さんへの気持ち。
それが少しだけはっきりとした。
同じだけ、蒼くんへの気持ちも。
………私、涼さんが好きだ。
蒼くんに対する“好き”と違う。
涼さんを“男”として、好きなんだ……
無愛想で無口、時々意地悪な涼さんが好きなんだ。
結婚してるって聞いて、ショックだった。
それでも、涼さんが好きなんだ。
…………蒼くんのお兄さんとして、会わなければよかった。
そしたら、蒼くんを傷つけることもなかったのに。
……私、やっぱりずるい。
『ただふざけてただけ。』
そう言えればよかった。
でも、声が出なかった。
「…にいちゃん。樹に何した?」
「…何も。」
「じゃあ、その格好はなんだよ!」
「………何だろうな」
「ふざけんな!何にもなくて、そんな格好するか?!」
蒼くんの声が、痛いほど静かな店内に響く。
傷つけた……
こんな私を好きだと言ってくれた。
甘い言葉や、甘やかされることに慣れていない私を、大切にしてくれた。
学校中の噂になっても、私を守ってくれた。
そんな蒼くんを、私は傷つけた。
だけど、不思議とホッとしてる自分もいる。
何となく曖昧だった、涼さんへの気持ち。
それが少しだけはっきりとした。
同じだけ、蒼くんへの気持ちも。
………私、涼さんが好きだ。
蒼くんに対する“好き”と違う。
涼さんを“男”として、好きなんだ……
無愛想で無口、時々意地悪な涼さんが好きなんだ。
結婚してるって聞いて、ショックだった。
それでも、涼さんが好きなんだ。
…………蒼くんのお兄さんとして、会わなければよかった。
そしたら、蒼くんを傷つけることもなかったのに。
……私、やっぱりずるい。