珈琲の香り
「ふざけんなっ!」


そう言って、蒼くんは飛び出していった。


追いかけなきゃ……


そう思うのに、体が動かない。


でも………

追いかけて…何て言うつもりだったんだろう?

『涼さんとは何もない』って言うつもりだったのか、それとも、『涼さんが好き』とでも言うつもりだったのか。

私、自分がよくわからない。



「…行かなくて……いいのか?」

「……追いかけた方が…いいですか………?」


そう聞いたけど、涼さんの腕を振りほどくことができない。

強く抱かれてる訳じゃないのに……



離れたくない……

それが私の気持ち。

だけど、これ以上蒼くんを傷つけたくない。


「……蒼くんを、追いかけてきます………」


涼さんの腕をゆっくりとほどくと、もう一度だけ涼さんを見上げた。



そこにはほんの少しだけ傷ついた目をした、だけど、いつもと変わらない涼さんの顔があった。


「…蒼を、頼むな」

「はい……」


ゆっくりとうなずくと、私は蒼くんを追いかけるために店を出た。


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