珈琲の香り
きっと……勝てない……


そんな気持ちが顔に出てたのか、蒼君は励ますように肩を叩いてくれた。


「そんな顔するなよ。もうかなり前の話だし、それに、にいちゃんはたぶん、樹が気になってるから」

「そんなこと言われても……」

「まあさ、にいちゃんにフラれたら、僕のとこに戻っておいでよ。待ってるからさ……」


蒼君は笑っていたけど、私の心には大きな石が重りのように沈んでいた。

涼さんの気持ちを考えると、そう簡単に『好き』と言えない。

きっとまだ、風花さんのことが好きだから……

私が涼さんの立場だったら、何年経っても亡くなった相手を忘れることはできないから。

それに、例え事故であったとしても、自分だけ幸せになることなんてできないから。


「…蒼君……」

「泣くなよ……樹の泣くところ何て見たくないよ。笑え。とにかく笑え。僕のことも、風花さんのことも、全部引っくるめて、笑え。笑っててくれよ……」


蒼君は笑えと言う。

だけど、今すぐなんて無理だよ。

蒼君のことも、風花さんのことも、涼さんのことも……

私には消化しきれない。

このまま、どんな顔で涼さんの元に戻ればいいの?

どんな顔で、明日から蒼君と向き合えばいいの?

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