珈琲の香り
初めて『恋』をした。

こんなに辛い過去があることも知らないで……

こんなに人を傷つけるなんて知らないで……

私はなんて子供だったんだろう。


胸が苦しい。

蒼君の気持ちも、涼さんの過去も……

すべてが苦しい。


「…樹。にいちゃんを頼むな。久しぶりに笑ったんだ。やっと笑えるようになったんだ。……そばに……そばにいてやって。」


蒼君はそう言うと、私の頭をポンッと叩いて帰っていった。


蒼君は、本当に優しい。

こんな私を責めず、涼さんと幸せになれと言ってくれた。


……でもね。

きっと……………無理だと思う。

私はあまりに子供過ぎて、涼さんを支えきれない。

私は風花さんの代わりにはなれない。


どんなに難しい方程式も、必ず答えがある。

その解き方も……

でも、恋に答えはない。

その解き方も……

『こうすれば必ず愛される』

そんな公式はない。




……傷つくのを怖がるなら、恋はしない方がいい。

きっと桜はそう言う。

でも、好きになってしまったの……

たぶん、初めて……


「……どうしたらいいの……?」


蒼君の歩いていった道を、見つめるしかできなかった。

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