珈琲の香り
夏休みにも関わらず、私と蒼君が別れたという情報はあっという間に知れ渡った。


『蒼君と別れたんだって?まあ、しょうがないよねー。樹だもん。』

携帯が鳴る度、そんなメールが届く。

メールの内容から判断すると、私がフラれたことになってる?

……っていうより、誰が流したか。

まあ、見当はついてるけど。


「――いっちゃん、携帯がうるさいよー」

「……あんたがばらしたからね。」

「えーっ!ばらしてないよー。ちょっとかずちゃんに話しただけだよー。」


……かずに話したのか……。

それじゃあ、マイク使って大声で言ってるのと同じだよ。


――『かず』こと小峰佳津子。桜と同じ文学部。

別名『放送局』。

試験の範囲から学生同士の恋愛、教授の不倫情報や隠れた趣味まで網羅し、瞬時に学校中に流す。

かずに知られたことは学校中に知れ渡ることになる。

秘密を持つ人間にとって、かずは恐ろしい存在。


そんなかずに話すなんて……


「桜は誰の味方?」

「とりあえずはいっちゃんの味方。大丈夫。蒼君にフラれたことになってるから。」


……何が大丈夫だ!

そんな可愛らしく言ってもダメ!

膝を抱え、ホットミルクを飲む桜は何でも許してあげたくなるほど可愛い。

それは認める。

だけど……

だけど、かずに話したことは許せない!


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