桜が求めた愛の行方
『まったく、仕方ないですね』

田所は仕方なさそうに携帯を出して
操作した。
緊急性があれば連絡がくるはずだから、
さくら様のこと、大方電池切れでどこかに
ご友人と出掛けているのだろう。

田所はおや?と目を見張る。

『さくら様はこちらにいらっしゃる
 ようですよ?』

『なにぃ?!』

勇斗が携帯を奪おうとするのを、
ひと睨みして止めさせる。
たとえ上司であろうと、彼を高校生の頃
から知っている田所には、こういう時は
有効である。

田所は携帯を閉じた。

『どういう事だ?』

『さくら様がどうしてこのホテルにいるの
 かまでは、存じ上げません』

『そうじゃない』

睨む勇斗に田所は観念した。

『今さらその様な事を?
 あなたやさくら様がどのような立場の
 人間かは申し上げなくてもおわかり
 でしょう?』

『携帯のG P Sではなさそうだな?』

『はい、もちろんです』

『SPか、いつからだ?』

『さくら様は生まれた時からだと
 聞いてます。それでも何度か誘拐未遂の
 ような事がおきたらしいですよ』

『なっ!』

『さあ、さくら様の居場所がわかったら
 ご安心でしょう。
 仕事にお戻りください。
 今日中に舞台装置など見直して、
 来週にはフェアの準備にとりかからない
 といけないのですから。
 自ら関わりたいと言ったからには、
 最後まで責任を持っていただかないと』

勇斗は信じてついてきてくれる部下たちが、ちらちら自分を見ているのに気づいた。

『わかってる』

勇斗の携帯が鳴った。
慌てて表示を見ると、さくらではなく
京子先輩。

『もしもし……先程はお疲れ様でした。
 はい?!えっ?……いやそれは……
 別に文句があるとかそう言うつもりは
 ……しかし…俺はちょっと……
 わかりました、今回だけは…はい…
 あ、さくらは?……そうですか…はい
 よろしくお願いします』

携帯を切ると、勇斗が深いため息をついた。

『何かトラブルですか?』

『いや……さくらは京子先輩と一緒
 だったようだ、友人もいたと言っていた
 例のモデルの件、どうやら見あう相手が
 見付かったから、さくらを使うんだと』

『そうですか……』

田所の含みある言い方に、勇斗がジロッと
睨み付けた。

『京子さんは諦めないと思いましたよ、
 ですから、ご自分がお相手になられれば
 いいのに、と言ったのに』

『俺は何も言ってないぞ?』

『これは失礼』

田所は勇斗の視線などさらりと交わし
室内へ戻った。

『ちっ』

勇斗も戻りそこからは、やけくそのように
フルスピードで仕事をこなした。
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