桜が求めた愛の行方
ものすごい形相で現れた勇斗に、
さくらは驚いた。

『さくら!こっちへ来い!!』

腕を掴む強さにさくらが顔をしかめる。

『乱暴だなぁ』

ニールは普段の口調で言うけれど、
その声の冷たさに、この空間の温度が
一気に下がった。

『ニール!!』

さくらは慌ててニールに首を振った。

『ベイビー』

ニールは困った顔をした。

『他人の妻をベイビーと呼ぶのはどこの
 モラルのない国の人間だ?!』

『勇斗!!』

さくらが懇願するように見上げても、
彼の瞳は怒りに煙りさくらを映さない。

『おたくと同じ国だと思うよ』

『俺は人の妻に手を出すような恥知らずな
 人間じゃない!』

『僕は自分の妻を泣かせるような
 人間ではない!』

『何だと!!!』

『お願いやめて』

さくらは涙をこらえて勇斗を仰ぎ見た。

『くそっ』

さくらは腕の力が緩んだ隙に勇斗から
離れ、急いでボタンを押して扉が開いた
エレベーターにニールを押し込んだ。

『さくら!!』

降りようとするニールに首を振った。

『ごめんね』

ニールが渋い顔をしたまま扉は閉じた。

大丈夫、ニールはわかってくれる。
でも……
さくらは恐る恐る勇斗を見た。

見たこともない鋭い瞳にあるのは、
燃えるような怒り。

『覚悟は出来ているだろうな』

勇斗はフロントへ行き、戻ってくると
無言でついてくるように促した。

昼間テラスで彼女との会話を聞いた時に
さくらの胸に刺さったナイフが、
そこをえぐって新しい血が流れ出す。

私の誤解は解けるかしら……

これもまた運命なのかも知れない。

泣いたらダメ

私のせいでこの人が悲しむような事だけは
絶対にしない


さくらは黙ってエレベーターに乗った。

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