桜が求めた愛の行方
シャワーから戻ると、
予想通りさくらはいなかった。

『くそっ』

激しい自己嫌悪に襲われて、バーボンを
一気に煽った。
あんな強引に奪う様に抱いてしまって、
さくらの怯えた瞳を見るのが怖かった。

今ごろ一人で泣いているだろうか?
後悔と喪失の次にやってきたのは、
醜い嫉妬

まさか待ち伏せしていたあいつの所に?!

思わず立ち上がってドアに行きかけた。

『馬鹿か……』

それでどうする?
また同じことを繰り返すのか?
これ以上、愚かな男に成り下がるつもりは
ない。

自嘲して、グラスに並々と酒を注いだ。

一体どうなってしまったんだ?

俺たちは幸せな結婚をしたんじゃ
なかったのか?
美那の出現といい今日は色々と振り回されて
勇斗の心は混乱を極めた。

美那はなぜ今ごろになって?

彼女が男と海外へ行ったとわかった時、
俺は追いかけようともしなかった。
それどころか、美那を忘れる為に別の女で
紛らわした。

今はどうだろうか?
もしこのままさくらが俺の元から去って
行ったら……無理だ、ありえない。

さくらのいない人生など考えられない。

追いかける前に、今すぐ閉じ込めて
どこにも行けないようにしてやる。

これまで、さくらの過去を気にしなかった
訳じゃないが、俺たちは前に進んでいると
思っていた。

あの男……ニールとか言ったな。
流暢な日本語を話していたが、見た目は
ヨーロッパ系の顔をしていた。
パリにいたときの男だろうか?

まさか!!さくらを連れ戻しに?!

グラスを一気に煽る
ちくしょう!全く効かない!
酔い潰れたいのに、ちっとも酔えない!

勇斗は瞳に焼き付いたさくらの
悲しげな瞳を、掻き消すように何杯も
グラスを煽った。


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