桜が求めた愛の行方
いつの間にか眠っていたようだ。
温もりを求めて腕を伸ばすが、
冷たいシーツの感触しか見つからない
『…………さくら?』
丸くなった細い身体を抱きしめて眠る事が
習慣になっていることに改めて気づかされる。
この時間に眠る彼女を起こす楽しみすら
今はむなしい。
勇斗はコーヒーを飲もうと起きあがった。
昨夜は深酒したようだ。
僅かに痛む頭を押さえてコーヒーを淹れた。
『ちくしょう』
不味い
飲みたいのはこんなコーヒーではない。
さくらのコーヒーを思い出しただけで、
胸が潰れそうになる。
田所が迎えに来る前に家に帰らねば。
勇斗はタクシーに乗り、
家に戻ると玄関で立ち止まった。
さくらは帰っているだろうか?
居るわけないか……
俺の顔など見たくないだろう
もう二度とここには
帰ってくることはないかも知れない……
頭で考える事は、当然のことばかりなのに
心が、扉を開けたらいつもの様に彼女が
おかえりなさい、と駆けてくるのを
切望している……
これまでの人生で、こんなに怖じ気づいたのは初めてだ。
勇斗は覚悟を決めて鍵を差した。