桜が求めた愛の行方

玄関の開く音に、さくらはビクッとした。

勇斗が帰ってきた！
それだけでまた涙があふれてきそうになる。

ダメ！もう泣かないって決めたんだから。

声が震えないように笑顔をつくった。

『おかえりなさい』

予想していなかったのだろう勇斗が
驚きで瞳を見張った。
挫けそうな心を必死でこらえて、
矢継ぎ早に話しかける。

『コーヒー飲むでしょ？先に着替える？』

『……………コーヒー』

『わかった、座ってて。
　それ、作りすぎちゃった、よかったら
　食べてね』

テーブルの上には勇斗が美味しいと言った
サラダやパンが山のように並べられている。

それを見た勇斗の複雑な顔は、
見ない振りして、コーヒーポットを取りに行き
カップに注いだ

『昨日は……』

背中から聞こえる声にさくらは首を振った。

『お願い、何も言わないで！
　あなたの言いたいことはわかってる』

『だが……』

『５年前に戻るだけよね？
　偽りの婚約者だった時と同じでしょ？
　でもあの頃と違うのは一緒に暮らさな
　ければならないと言うこと。それならば、
　これまでと同じ、家の事は私にさせて？』

勇斗は答えずに、目の前に置かれた
カップに口をつけた。

目を閉じてぐっと何かを堪えた彼は
全て飲み干してから深く息をはいた。

『好きにしろ』

『ありがとう』

さくらは、ほっとして握りしめていた
コーヒーポットをテーブルに置いた。

『着替えてくる』

勇斗はさくらを見ずに立ち上がって
部屋に行ってしまった。
彼が入ったのは、越してきてから使って
いなかった右側の部屋だ。

パタンと扉が閉まる音がして、
へなへなとその場にしゃがみこんだ。

今日、彼が帰って来るまでに荷物を移して
置かなくちゃ………