桜が求めた愛の行方
『うっ嘘だ!!』

『嘘なもんか、ニールが好きなのは僕だよ』

『なっ?!真斗?おまえ?!』

兄さんの瞳は白黒して
間違いなくパニックを起こしている。
それを見て、真斗は愉快な気分になってきた。

いつも隙がなく完璧な兄さんは
自分の大切な人の事になると
冷静さを欠いてしまうようだ。

『残念ながら、僕はあの想いに応えられない
 けどね。安心した?』

『まあ…俺はおまえがそうだとしても…』

『違うよ、その気持ちは家族として
 ありがたいけど、さくねえとニールが
 何もないってわかって安心しただろ?』

安心?!
安心なんかするものか!
勇斗は心底パニック状態に陥っていた。
自分のしてしまった事に、
地の果て、まさに地獄に落とされた気分だ。

『俺が地獄に堕ちるのは間違いない』

『だとしても、さくねえが救ってくれるさ』

『真斗……俺は……』

『兄さん、実は話さなければいけない事が
 もうひとつあるんだ』

『なんだよ?』

『あのさ…………』

もう何を聞いても驚かない自信があった
勇斗だが、それは間違いだった。

『なんだと?!美那がマンションに?』

『そう、何かおかしくない?』

『だな、俺の所に来る前か……』

『おまえそれを調べるのに忙しかったのか』

『まあね』

『試験は大丈夫なのか?』

『試験?ああ、あれ嘘。
 僕とっくに卒論も終わってて、単位も充分
 だから、教授におまえにはもう来なくて
 いいって言われてるから』

『なんだと?!』

『あっ!母さんには内緒にして!
 僕が暇だってわかったら、
 何を押し付けられるかわかったもん
 じゃないから!』

『ああ、そうだな』

『それより兄さん、気を付けて。
 これは誤解による夫婦喧嘩…… 
 そんな単純なことで終わらない気がする』

『わかってる!』

『誤解、だよね?
 さくねえも誤解だってわかるよね?』

『真斗、おまえ生意気になったな』

『それは、兄さんに似てきたって
 誉め言葉だね?』

『まったく!こいつは!!』

立ち上がって真斗の肩を叩いた。
誤解さ、全ては愚かな自分の誤解だった。

だが、それを仕組もうとする奴がいる事を
忘れてはならない。

先ずはさくらだ。
勇斗はどうやったら、赦してもらえるか
その日はその事に集中し過ぎて、
部下たちが残業で頑張る中
田所から上の空だから帰ってくれと
言われてしまった。

それに素直に従って、勇斗は後を田所に任せて
帰宅することにした。

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