桜が求めた愛の行方

『田所に連絡した方がいいな……』

それを聞いたさくらは、突然目を開いて
彼の胸を押した。

『さっき、あなたがシャワーしてる時に
 電話がきたの!』

『誰から?』

『田所さん、
 今日は休むから別の人をよこすって』

『はあ?何で?』

『理由を聞く前に、
 慌てて切られてしまって』

言ってる側から、インターフォンがなり
元気な声が、勇斗の迎えを告げている。

『待たせたら悪いわ』

さくらは緩んだネクタイの結び目を直して
椅子に掛けられた上着を取った。

『ちぇっ』

不機嫌な彼の様子につい微笑んでしまった。
私は愛されているのよ、夢じゃないの。

『ゆうと』

『ん?』

『早く帰ってきてね』

『おまえ、行かせるつもりないだろ』

笑いながらぎゅっと抱きしめられた後、
手を繋いで玄関まで一緒に行く。

『いってらっしゃい?』

出ていこうとした彼に左手を取られる。

持ち上げられると、薬指に唇が当てられた。

誓いのようなその行為にさくらの胸は、
いっぱいになった。

『さくら、俺を見捨てずにここに
 居てくれて、ありがとう』

もしこれが夢だったとしても、
私は神様を恨んだりしない。
こんなに幸せな気持ちがこの世にあると
感じることが出来たから、もう悔いはない。


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