桜が求めた愛の行方
『今回だけですから』
『わかってますよ!
それでは明日の最終リハーサルも
よろしくお願いします』
上機嫌の鈴木に、真島がすかさず書類を
出した。
『藤木がモデルをお引き受けするに
当たっての、こちらのお願いを渡すよう
田所から言い付かっております』
さもこの話は二人の間で終わっていて
これから交渉なんて、ありえない口ぶりだ。
『は?』
『まさか!!田所が申しておりましたが、
藤木はモデル料など頂くわけには……』
『えっ?!これは……』
鈴木は差し出された書類をざっと読んだ。
書かれていた内容は、無理難題ではないが
こちらの予算ギリギリをついている。
落ちぶれていたホテルを救ってやろうと
強気だった契約が、一気に対等なものに
変わってしまった。
ここでも上司の忠告を守る真島は、
何も言わずに、ただ笑顔で相手のサインを
待っていた。
『もちろん、今からモデルをやめることも
可能ですよね、専務?』
やるじゃないか、真島!
勇斗は笑いそうな口元を引き締めた。
『ええ、もちろんです』
『いや!それは困ります!!』
『鈴木さん、この企画必ず成功します!
直ぐに結果は見えないかも知れませんが
一年後、二年後にはお互い大きな成功を
手にしていると、僕は確信しています!
ここにいる藤木専務は、僕が思う以上の
大きな方です。どうか一緒にこのホテル
の未来を担ってください!』
真島の真摯な言葉に、
思いがけず勇斗の胸が熱くなった。
元来、体育会系の熱い男の鈴木にも
それは伝わったようで、胸ポケットから
ペンを出すと、書類にサインした。
『これは私の一存です。
もし、失敗に終わった時は藤木で雇って
頂きますからね』
真島は書類を受け取り、
慌てて電話をかけに行った鈴木を
その場で見送って、勇斗を振り返る。
『そうはならないですよね?』
勇斗は笑顔でうなずいた。