桜が求めた愛の行方
ニールは恐ろしさに身震いした。

さくらはパリで一度だけ、誤解が招いた
トラブルで、キレたことがある。
その残虐な仕返しはまさにディアブル……

『はい、ママ。二度としません誓います!』

『わかればいいのよ』

さくらは、ふーっと息を吐いて
やけに静かな空気にハッとした。

『きょ、京子さん……?』

『嘘よね?嘘だって言って……』

京子さんはゆるゆると首を振っている。

『あっ、あのねニールは……』

『あれ?京子さん?気づいてなかった?』

ニールが呑気にダメ押しした。

『ああ・・・・・・そんな・・・・・・』

さくらは仕方なく、うなだれる京子に
いつもの決まり文句を言った。

『神様は時々不公平な気まぐれを起こして
 しまうんですよね』

さくらが彼女でないとわかると、
ニールを紹介して欲しいと頼む女友達。
何もしないさくらに、彼女達は自ら
果敢にアタックしては、
京子のように打ちひしがれていた。

私だって、あんな出会い方をしていなければ
信じずに同じように打ちひしがれた
一人だったかもしれない。

忘れもしない大学2年の夏。

ようやくまともにお付き合いしたいと思った
消防士の彼が苦しそうに告げた好きな人。

それがニールだった。

『そうね、いい男には必ず罠があるのよね』

『罠ですか?』

さくらは、京子の深いため息に苦笑いした。

『さ、二人はOKよ。お疲れ様、
 明日の本番もよろしくね』

さっきまでのはしゃぎっぷりが嘘の様に
京子はがっくりと肩をおとして
残りのチェックに行った。

『ねぇベイビー、写メなら……』

携帯カメラに写ったさくらの
笑顔を、わからないニールではなかった。

『早く着替えましょ!』

『はい』

ニールはすごすごと携帯をしまって、
さくらの後についていった。


< 140 / 249 >

この作品をシェア

pagetop