桜が求めた愛の行方
『ニール、化粧室に行ってくるね』

さくらは着替えを終えて、
ドア越しに伝えると、化粧室に入った。

鏡の前でメイクを直す女性を見て
足が止まってしまう。

美那さん……

…………どうして?

気づいた彼女もさくらを見て小首を傾げた。

『あら?どこかでお会いしたかしら?』

『以前、マンションの前で……』

『ああ!あの時の!』

彼女は私が勇斗の妻だとまだ知らないの
だろうか?
それとも、知っていてその態度?

『あの時は変な事言って、ごめんなさい
 おかしな女だと思ったでしょ?』

『いいえ、そんな……』

『あの後ね、彼に会うことが出来たのよ
 やっぱり運命ってあるのよね』

この人は何が言いたいのだろう?
勇斗の事を言っているの?
嬉しそうな顔に以前は動揺して
気付かなかっただろう、違和感を感じる。

『そう、ですか……』

『彼、結婚していたんだけど
 それは間違いだって気づいたみたいで
 私とやり直したいって言ってくれたの』

ついこの間までの私なら、それを信じて
この場から逃げ出していただろう。
でも今は違う。
勇斗は私を愛してると言ってくれた。
彼女の言う人は勇斗ではない。

『良かったですね』

予想外のさくらの反応だったのだろう。
美しい顔に、一瞬苛立ちが過った。

『あなたもモデルだったのね?
 さっきドレスを着ているのを見たわ』

『いえ、私は友人の頼みで今回だけです』

『そうなの?お相手のモデルさんは
 見かけないけど、どこの方かしら?』

『彼もモデルではないんです』

『あら本当に?もったいないわね。
 そしたら、二人は恋人かしら?
 私の相手もね、モデルではないのに
 彼がしてくれる事になったのよ、ふふっ』

『え?!』

それはさくらを動揺させる事に成功した。
勇斗が彼女の相手をするの?
ウエディングドレスの彼女の隣を歩くの?

『それは……』

『せっかくだから、記念にって』

『う、嘘よ』

『どうなさったの?顔が真っ青よ』

『勇斗はあなたとなんか……』

『あら?あなた彼を知ってるの?』

『いい加減わざとらしいのは、
 やめてください!!』

『なあんだ、残念。知らないふりした方が
 お互いの為だと思ったのに意外と
 浅はかな方だったのね』

『美那さん!』

『あら、私の名前も知ってたの?ううん、
 当然よね、偽物婚約者のさくらさん』

彼女の豹変は驚くより、嫌悪感で
吐き気がしてくる。

『それは昔の話で、今は違います』

『そうかしら?』

冷静にならなければ負けるわ
信じるべき人は、この人ではなく
勇斗の方なのよ。
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