桜が求めた愛の行方
『そこまでだ!!』

勇斗の声を聞いて、さくらは大きな瞳を
さらに大きく見開いた。

『ちょっと!!離して!!』

振り上げられた美那の手を掴んでいたのは
ニールだ。

『おっと失礼、でもこの手はまだ何かする
 つもりがありそうだよね』

ニールの顔は笑っているのに、
瞳が笑ってない。
容赦なく美那の両手を拘束した。

『美那、おまえ、こんな事して
 ただで済むと思うなよ!』

彼の怒りのオーラに、部屋の空気が
ピリピリしている。
あの入り口に見張るように立って
いるのは、真島君だわ。

『あなたこそ、いい加減に目を冷まして!
 私にプロポーズしてくれた日を
 思い出してよ!』

『ああ、あの日おまえが断ってくれて
 本当に良かったよ、そうでなければ
 今ごろ俺の戸籍にバツがついていたさ』

美那がキッと彼を睨んだ。

『そう…結局あなたもお金が目当だった
 訳よね、今や藤木グループはあなたのもの
 ですもの、地位も名誉も捨てられないわ』

そんな挑発も彼にはたいしたことでは
なかったようで、美那を鼻で笑った。

『俺は本当に馬鹿だったと、心から思うよ
 どうしておまえのような女の正体を
 見抜けなかったんだろうな……』

勇斗は考える振りをして、私を見た。
あの顔は知っている……

『あっ、そうか!
 さくらが俺に冷たかったからだ、
 俺の事を、ねえとかあなたとか名前
 ですら呼んでくれなくて、なあ?』

向けられた極上の甘い笑みは、
その場にいたもの達の心臓を一度止め、
空気中の酸素を奪った。

彼が動いてさくらを抱き締めるまで
時間が止まっていた。

彼が本気になればどんな人でも魅了できる

その事を身をもって体験させられた
その場にいた全員が、酸素を求めて喘ぎ
ニールは手で顔を扇いだ。

『俺を信じてくれてありがとう』

頭上から囁かれた声に張り詰めていた糸が
ぷつっと切れた。

ありがとうは愛してると同じ効力がある。

さくらはただ首を振って彼にしがみついた。


< 143 / 249 >

この作品をシェア

pagetop