桜が求めた愛の行方
『契約って?本当に大丈夫なの?』

さくらの不安な視線が真島を困らせる。

真島の困った顔に勇斗は苦笑いした。

『さくら、隠しても仕方ないから言うと、
 かなり厳しくなるな……』

『ごめんなさい』

『なんでおまえが謝る!』

『でも……』

『あの…』

『どうした真島?』

『契約なんですが、昨日交わした書類は
 有効ですよね?』

『すまないが、あの様子では美那は
 この会社に大きな影響力があるようだ
 俺がモデルを引き受けないとなれば、
 大元のこの企画そのものから
 手を引かれる可能性がある』

『そうですか』

何となく納得できない真島の顔を見て
ニールが仕方なさそうに動いた。

『真島くんって言ったね?』

『はい』

『その契約書、いま全部ある?』

『はい、ここに』

『見せて』

『駄目だ!部外者が勝手に口出しするな』

『お願い、見せてあげて』

『さくら?』

『ニールはすごく優秀な弁護士なの
 仕事は確かよ』

『その言い方、なんかひっかかるな』

口をへのじにしてニールは拗ねた。

『……わかった。真島、渡してくれ』

『こちらです』

『さくらの為に見るんだからな』

渡された書類を渋い顔で目を通していた
ニールが、最後の一枚を見て
にやっと笑った。

『これ作ったの真島くんじゃないの?
 特にこの最後のやつ』

『はい、それはすべて室長です』

『ふうーん……室長さんかなり辣腕だね
 って言うか、これよくサインもらったな』

『どういうことだ?』

『ここ、ほら!最後のところさ、
 わざと小さな字で、読み流さすような
 書き方をしてある。
 いつまでもさくらにくっついてないで
 見てみろよ』

『これは……』

奪うように取った勇斗が、目を見張った。

『ニール?』

『ベイビー、この最後の契約書によるとね、
 このモデル契約に貴社からの
 一方的な解除の申し出があった場合は
 弊社に相当の違約金を支払う、もしくは
 契約書第1から3項の続行をもって
 それを受け入れるだってさ』

『それって?』

『まあ平たく言えば、ダーリンから
 モデルを断らなければ、契約はそのまま
 ってことだよ』

『でも違約金を支払うって言ったら?』

『ありえないね』

『どうして?』

『だって違約金、一億だもん。
 たかだか一日限りのモデル契約に』

『えっ?!』

『室長さん、エンマークをユーロのマークに
 して上手くゼロを誤魔化してる
 サインした担当者は、モデル契約の解除
 なんて夢にも思っていないのか、
 こちらの思惑通りうっかり見逃したのか
 まあ、そもそもの契約が向こうに有利
 だったから、安心してたんだろ。
 どちらにしても僕がいたら
 こんな契約書にサインはさせないね』
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