桜が求めた愛の行方
『俺の観察はその辺でいいんじゃないか?』

勇斗が書類に視線を向けたまま言った。

『観察なんかしていないわ。
 私の婚約者は相変わらず素敵だなぁって
 見とれていたのよ』

それを聞いた彼の唇が面白そうに歪んだ。

『それはパリで流行っている
 最新の口説き文句か何かか?』

『違うわよ、
 ねえ?私達、婚約してもう5年なのよね』

『そのようだ』

勇斗の片眉が上がった。
さくらは思わず出そうになったため息を
押し殺した。

ほら、彼は直ぐに気づくじゃない。
ぐずぐずしないで、一気に言ってしまうのよ。

気さくに明るくよ。

『3ヶ月後、結婚することは聞いてる?』

衝撃が彼に伝わるの見つめた。

『なんだって?!』

『あら、お母さまから聞いてないの?』

『馬鹿な……
 帰国早々くだらない冗談はやめろ』

大丈夫、ここまでは想定内よ。
驚き、疑い、そして次は怒りね。
耳を塞ぎたくなる手を握りしめた。

『わざわざ呼び出して、冗談でこんな事を
 言うほど暇人じゃないわよ。
 式場はこのホテルらしいわ。
 誓いはどこにたてる?チャペル?
 それとも神社?』

『いい加減にしろっ!!』

彼はテーブルを叩いて立ち上がった。

『やめて、周りに迷惑だわ』

勢いに任せて怒鳴ると、
勇斗が馬鹿にしたように周りを見た。

『どこに人がいるって?』

平日のランチ前の時間、
立木さんが気を利かせてくれたのか、
私たち以外にテラスに人はいなかった。

『わかった。
 それなら気のすむまで怒鳴ったら?
 だからって、何も変わらないけれど』

さくらは、やけくそに言い捨てて
次の衝撃に身構え瞳を閉じる。

少し待っても彼が何も言わないので、
恐る恐る瞳を開けると、
驚いた事に心配そうにこちらを見下ろす
視線とぶつかった。

『一体どうしたんだ?』

それは反則よ。
ダメ、そんな瞳で見ないで。

『どうもしないわ』

『そんなわけないだろう、
 おまえがそんな突拍子もない事を
 言うわけがない』

『わかったような事言わないで』

『本当のことを……』

『そうだ!!
 あなた確か好きな人がいるって
 言ってたわよね?』

勇斗がギクッする。
あぁ、これを一番恐れていたのよ!

『どうなったか、聞くつもりはないわ。
 申し訳無いけれど、こうなるとその方には
 結婚は諦めて頂くしかないわね』

『いい加減にしないか!!』

だから嫌だったの!!
彼はまだ彼女と続いている。
でももしかしたら、彼女とは別れているかも
知れないと淡い期待もしていた。

『ちゃんと話して見ろよ』

勇斗の優しい声に居たたまれなくなった。
こんな事、できる訳がないわ。
約束をしたけれど、押しきるとは言ってない。

さくらは逃げるように席を立った。
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