桜が求めた愛の行方

『ん?ああ、そうだ。その場にいることに
 意味があると思っているんだ。
 おかしいだろうか?』

『いいえ。私は要人様がそうされる側に
 いましたから』

『一番近くで全てを感じたいんだ』

トキオの改装中に、要人さんも言っていた。

それは、息を深く吸い込んでいたホテルが
その息を全部吐き出し、
新しい息を吸うのを自分の肌で感じること
なのだと俺は理解している。

『本当は今すぐにでも行きたいが?』

『お気持ちは良くわかります。
 しかし並行するベイサイドの件もある
 ので、やはり来月からが最速ですね』

『そうか』

『ところで……
 さくら様はその間どうされるのですか?』

『さくら?』

『お2人はまだ新婚ですし、別居となります  といい噂は立ちませんから』

『なぜ?さくらが軽井沢に行かない?
 おまえが何か言ったのか?』

さくらと別居するなどありえないだろ。
当然一緒にホテル住まいするに決まって
いる、あいつが拒否する訳がない。

『いいえ!ではご一緒に?』

『当たり前じゃないか』

『それならばよかったです。
 さくら様はその……軽井沢がお好きでは
 なかったかと……いえ、すみません!
 出過ぎた事でした、忘れてください』

『そうなのか?』

だとしても、
俺と離れて暮らす事になるなら、
たった1ヶ月なら堪えてくれるはずだろう。

『すみません!本当に気にしないで下さい』

田所が慌てるなんて珍しい。
軽井沢とさくらに何かあるのだろうか?
まあいい、
今夜さくらに話せばわかることだ。

秘書室からの電話が鳴った。

『会長が専務をお呼びです』

『わかった』

田所が受話器を置いた。

『いよいよきたな』

『逆に遅すぎで、何かある気がしますが?』

『かもな、でも心配しなくていい』

『心配はしていません』

田所のこういう所は嫌いではない。
むしろこんな風に俺を信じてくれているから
今まで自分に自信をもってやってこられた。

ったく、心強い秘書だよ。

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