桜が求めた愛の行方
『会長、専務がおみえです』
秘書に案内されて勇斗は会長室へ入った。
『おお、勇斗か。そこへかけなさい』
素直にソファーに座って、秘書がお茶を
出す間、ぐるりと会長室を眺めた。
初めて来たのは専務に任じられた時、
この部屋の空気の重さに、自然に背筋が
伸びたのを覚えている。
藤木にきて、この人の本当のすごさを
思い知った。
じいさま等と気軽に呼べるものではない。
オーラが違う。
この国の成長期に会社を大きくし、
経済が弾け飛んだ時代にも減らす事の
なかった資産。
国政へという声の噂を、子供の頃から
何度も聞いた事がある。
この威厳のある大きな壁に要人さんは
立ち向かっていた。
そして今、俺を孫娘の婿にしたのは
自分の思い通りにするためだったのなら、
見当違いだったとわかっただろう。
『計画書を見たぞ、
軽井沢を変えるそうだな?』
『はい』
『おまえもまた、要人と同じ考えを
するのだな。わしの考え方はもう
古いのか?』
『いえ、そのような事は』
『嘘をつけ』
『本当です』
張り詰める空気に負けぬよう、
会長の目をまっすぐに見つめた。
『会長の築かれたものが、変わらないから
こそ価値あるものになっていると
思っています。でも実際それを決めるのは 私達ではありません』
会長が築いたものに価値はある。
古きよき……その言葉は人の心に郷愁を
呼ぶだろう。
だがそれは、新しいものにとっては
どうだろうか?
『続けてみろ』
『はい。老舗と呼ばれる価値を守るには、
時代を無視し頑なになっていては、
取り残されていくだけです。
何もかもを新しくすればいいと言う訳
ではないことはわかっています。
常連客の思い出の為に変わらない場所で
ある事は大切です。その変わらない部分を 壊さないように新しい風を入れる、
それを大事にしていくつもりです』
『ふむ』
『会長のお気に召さない事があるかも
しれませんが!』
『まあ、そう気色張らんでもよい。
反対するつもりで呼んだのではない
とっくに決裁書に判を押したではないか』
『え?』
拍子抜けすると、会長がニヤリと笑った。
秘書に案内されて勇斗は会長室へ入った。
『おお、勇斗か。そこへかけなさい』
素直にソファーに座って、秘書がお茶を
出す間、ぐるりと会長室を眺めた。
初めて来たのは専務に任じられた時、
この部屋の空気の重さに、自然に背筋が
伸びたのを覚えている。
藤木にきて、この人の本当のすごさを
思い知った。
じいさま等と気軽に呼べるものではない。
オーラが違う。
この国の成長期に会社を大きくし、
経済が弾け飛んだ時代にも減らす事の
なかった資産。
国政へという声の噂を、子供の頃から
何度も聞いた事がある。
この威厳のある大きな壁に要人さんは
立ち向かっていた。
そして今、俺を孫娘の婿にしたのは
自分の思い通りにするためだったのなら、
見当違いだったとわかっただろう。
『計画書を見たぞ、
軽井沢を変えるそうだな?』
『はい』
『おまえもまた、要人と同じ考えを
するのだな。わしの考え方はもう
古いのか?』
『いえ、そのような事は』
『嘘をつけ』
『本当です』
張り詰める空気に負けぬよう、
会長の目をまっすぐに見つめた。
『会長の築かれたものが、変わらないから
こそ価値あるものになっていると
思っています。でも実際それを決めるのは 私達ではありません』
会長が築いたものに価値はある。
古きよき……その言葉は人の心に郷愁を
呼ぶだろう。
だがそれは、新しいものにとっては
どうだろうか?
『続けてみろ』
『はい。老舗と呼ばれる価値を守るには、
時代を無視し頑なになっていては、
取り残されていくだけです。
何もかもを新しくすればいいと言う訳
ではないことはわかっています。
常連客の思い出の為に変わらない場所で
ある事は大切です。その変わらない部分を 壊さないように新しい風を入れる、
それを大事にしていくつもりです』
『ふむ』
『会長のお気に召さない事があるかも
しれませんが!』
『まあ、そう気色張らんでもよい。
反対するつもりで呼んだのではない
とっくに決裁書に判を押したではないか』
『え?』
拍子抜けすると、会長がニヤリと笑った。