桜が求めた愛の行方
ー半年前 パリ
『お嬢様!今、藤木グループは創業以来の
危機に立たされています!』
半年前、突然パリのアパルトマンに
田所が訪ねて来て、開口一番そう言ったの
には本当に驚いた。
田所透《たどころとおる》
入社当時から注目されていた
精悍な顔立ちをした期待の星だった彼は、
みるみる頭角を表して、三年目には
パパから絶対的な信頼を得て、
社長秘書となっていた。
肩書きは秘書でもパパの態度をみれば
将来的には会社を担う片腕として
彼を扱っているのが誰の目で見ても
わかっていたと聞いたことがある。
でもパパが亡くなってしばらくすると、
何故か彼は藤木を去って
佐伯商事にいってしまった。
その事はあまり気に留めていなかった
だけに、パリまできた彼が藤木の内情を
知っているのが、わからなかった。
『それで?私にどうしろと?』
『日本にお戻りください』
『私が戻った所で何も出来ないのは
わかっているはずよね?』
さくらだって藤木グループの経営に
興味がなかった訳ではない。
でも男尊女卑のお祖父様が、
そしてパパもそれを望んでいないのは
わかっていたので、いわゆる帝王学とは
かけ離れた所に興味をおいてきた。
『いいえ、あなた様はおわかりの筈です』
『いったい何が言いたいの?』
『ご婚約者の勇斗様の事です』
『それはどういう事かしら?』
『全てを知っておられるのでしょう?』
『えっ!?』
まさか!?どうして?
どうしてあなたがそんな事を言うの?
『私が何を知っているっていうの?』
『こんな駆け引きは時間の無駄です』
『あなた何を知っているの?
まさか!?まーくんが何か……』
『真斗様がご存知なのですか?!』
彼が逆に驚いて私の腕を掴んだ。
もうこれは決定的だ。
お互い何の話をしているのか言わずもがな。
『とりあえず中に入って』
これ以上は玄関先でする話ではない。