桜が求めた愛の行方
さくら
おまえを娘として心から愛している
その事は何があろうと信じて欲しい。
もう真実を知ってしまったのだろう?
側に居てやれなくて本当にすまない。
お母さんとの結婚は知っての通りだ。
この世界に身をおいていれば、
誰もが自由に恋愛結婚できるとは
思っていない。
それはお母さんも同じだった。
特にお祖父様達はあの通りの人だ。
利益にならない婚姻など許す筈がなかった。
だから諦めた相手がいても
お互い承知の上で結婚したんだ。
予想外だったのは、宿した命だった。
彼の存在をパパが知ったのは、
すでに一歳を過ぎた頃だ。
親友の佐伯が美咲さんを連れて
海外へ行ったと聞いた時は、
二人の幸せを純粋に祈ったよ。
戻って来たときにどう考えても自分の子
としか思えない彼を連れているのを
みるまでは、な。
はじめは怒りが大きくて、
美咲さんを責める事しか浮かばなかった。
そのあとは大きな後悔に苛まれた。
正直言って、お母さんの事は全く無視して
しまっていたんだ。
全てを元に戻そう……決心したその時に
お母さんからの思いがけない告白があった。
さくら、パパはこれは運命だと思ったんだ。
足掻くよりは全てを受け入れて愛そうと。
佐伯も美咲さんも、そしてお母さんも、
皆がおまえ達の幸せだけを願ったんだ。
本当の事を言えばおまえを愛せるか
不安だったよ。だがな、産まれたばかりの
小さなおまえを腕に抱いた時から
パパはおまえに夢中になったんだ。
あの日小さな手がパパの人差し指を握った
感覚は、今でも鮮明に思い出せる。
だからパパがおまえを慈しんだ日々を
疑わないで欲しい。
さくら、おまえが私のたった一人の娘だ。
パパの願いは、お母さんを赦して
おまえに幸せになって欲しい
さくら、愛してる
パパより
わあっと子供のように大声をあげて泣いた。
馬鹿な私、馬鹿なパパ
馬鹿、馬鹿、馬鹿……
堰を切ったように止めどなく溢れる涙。
喉がひくつき、しゃくりあげても
まだ悲しみの洪水は収まることを知らず、
大きな嵐が心の中で吹き荒れていた。