桜が求めた愛の行方

『それと軽井沢と何か?』

『実はすでに決定していた業者が急に
 工期の調整が出来ないと断りを入れて
 きました。その件は勇斗様がご友人の伝で  何とかできたのですが……』

『ですが?なに?』

『この事はさくら様には知られぬ様に
 勇斗様から口止めされています』

『わかったわ』

『どうやらレストランに出店を拒否する様に 圧力をかけているようでして』

『あぁ……』

さくらは瞳を閉じて歯を食いしばった。

勇斗が軽井沢のホテル改装の中で
一番の目玉にしたのは、実父の経営する
レストランだ。

銀座に店舗を構える
《アンジェドスリズィエ》は、
かねてより味に煩いグルメ家達から
定評のあるフレンチレストラン。
先頃フランスのタイヤ会社が発行する
ガイドブックで星を2つ獲得し人気に
拍車がかかり予約は1年待っても無理だと
いわれている。

そんな人気店だが、支店を出すことを
オーナーが頑なに拒否している事でも
有名な話で。
だから目玉にしたいと勇斗が私に頼むこと
なく、自分で一生懸命交渉したと聞いて
口を挟むのを止めたのに。

実父が私を想っていることは嫌でも
店名を見れば気づいてしまう。

天使の桜……だからって何?

意気地無しの実父のせいで皆が
不幸になったのに、一人成功を手に入れて
悦に入ろうとかそんなの許せない。
母が私を宿した時にどうして責任を
とらなかったの?
全てをパパに押し付けておきながら、
今さらなんだというの?
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